ウゴルスキによる小品集

ウゴルスキによるピアノ小品集を聴き始めた。木々の前で、頭に指を遣りながら小首を傾げ空を見上げるポーズの彼は、いかにも夢想家のようである。

ドビュッシーのベルガマスク組曲から「月の光」は、止まりそうになるほどの速度で、だからそれは深夜の人々が寝静まったあとの、月の独り言や深い吐息のように聞こえる。

ラフマニノフの前奏曲「モスクワの鐘」は、大伽藍にこれでもかというほどに反響しつくす、もの凄い量塊だ。

このほか、ブゾーニ、リスト、メンデルスゾーン、シューマン、ショパン、スクリャービン、ウェーバーなど、これまでと違っての弾き方で、手が切れそうになるほどの寒い朝も、心あたたかになる。
  

Short Stories

Anatol Ugorski / Deutsche Grammophon/Special Im

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# by k_hankichi | 2013-12-17 07:21 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(3)

鳥取の激しく奇天烈な名家の歴史・・・『赤朽葉家の伝説』(桜庭一樹)

桜庭一樹の小説を読むのは、これが二作目だ。『赤朽葉家の伝説』(桜庭一樹、創元推理文庫)。なんだか重厚そうな面構えの本で、とっつきにくいかと敬遠していたのだが、いざ一歩踏み入れてみると、存外に心地よい風が吹く。鳥取の山が迫った海沿いの街の名家が舞台だ。

人の未来を予見できてしまう能力をもった祖母・赤朽葉万葉、母・毛毬、そして毛鞠の子・瞳子(すなわち書き手)。終戦後、間もないころから織りなされる三代にわたり製鉄業を営む家の歴史だ。1953年、万葉10歳のころから、平成の現代までの歴史だ。

万葉は、山間の人(サンカ)の子供らしいが、土地のその製鉄会社で働く若夫婦の家に置いて行かれた。学校の勉強はできず、読み書きもままならぬ万葉だが、未来を予見する「千里眼」の持ち主であることは、周囲のだれも知らない。そんな彼女だが曾祖母のタツに認められ、旧家赤朽葉家に望まれ輿入れする。

夫・曜司との間には、泪(長男)、毛毬(長女)、鞄(次女)、孤独(次男)ノ四人の子供が生まれる。名付けはすべてタツだ。その合間に、曜司は、別腹の子・百夜(女)を設ける。毛毬は成長して瞳子を設けるが、その本当の名前は「自由」(祖母タツによる生前の想い)。叔父は「孤独」と名付けられたことからすれば、その対角を祈念したのかもしれない。

彼らは、高度経済成長、バブル景気、そして平成の世に至るなかで、それぞれが実にユニークな生きざまをしてゆく。

この小説の時代は僕らにぴったりと寄り添う。読みながら、あの時代その時代と自分の歴史が、脳裡を駆け巡る。そして鳥取の片田舎の、摩訶不思議なるまでの出来事に感嘆する。

どうしてこんな情景を思い浮かべることができるのだろう。奇想天外、奇天烈と言ってもよく、しかしグロテスクさの一切ない、涼風が吹いているのだ。時には山おろしの風のようでもあるが。

桜庭一樹。只者ではない書き手だ。

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

桜庭 一樹 / 東京創元社

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# by k_hankichi | 2013-12-16 00:30 | | Trackback | Comments(4)

娘が来りて笛を吹く、冬の夜のたゆたう夢幻・・・Emma Resminiのプーランクと武満

プーランクのフルートソナタがそっと心に沿う夜。そのほかの笛吹きによる演奏をYoutubeで聴いていた。

そんななか、ひときわ目と耳を惹いたのが、米国のEmma Resminiという11歳の少女だ(現在は14歳)。名だたる演奏家に引けをとらぬ息遣いに驚く。

音は非常に細かなビブラートとともに流れている。その揺れるような音の波は、遥か彼方に無垢というものを置き忘れてきてしまった僕らに迫り、その心をぐいと掴む。

武満徹の遺作『エア(Air)』(1995年)を演奏したものもすごい。献呈されたオーレル・ニコレどころではないのではないか。Emmaよ、あなたはいったい、なにものなのですか。

※すこし資料がアップされていた。
http://www.teachflute.com/2013/02/conversation-with-emma-resmini.html
https://www.youtube.com/user/GeoRockMin

■Emma Resminiによるプーランクのフルートソナタ
http://youtu.be/h7c1fWEqICE
http://youtu.be/dCEpY76na2A
http://youtu.be/fOUnK12Q5QQ


■Emma Resminiによる武満徹の“Air”
http://youtu.be/4H-tHGcOfbY

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# by k_hankichi | 2013-12-15 00:11 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

プーランク・フルートソナタ・・・更けゆく夜のしじまに艶を増す

この曲を、嘗てよく聴いていた気がする。それは大学生のころだった。だれによる演奏だったのだろうか。とおい昔への想いが掻き立てられる。

いま、改めて(というかおそらく30年あまり経てから)聴き通してみると、艶やかなる旋律に、思わず背中がらぞくぞくっという気配がしてくる。そしてそれは夜のしじまに冴え渡る。

第1楽章の定まらぬ不協和音の旋律に、自分の存在意義はなになのだろうかと問われながら、手招きされる。我はその音魂に心を奪われ、いざなわれゆく。

第2楽章は、Cantilena。文字どおり歌うような旋律の哀歌だ。松本清張の小説にあるような色彩がここにある。フランスの国と東亜の国には垣根はない。いまに生きる人たちの通奏低音がここにある。

第3楽章は諧謔。不安や哀れさを経ての、未来への扉を開ける決意だ。

ライナーノーツを眺めてみれば、1956~1957年にかけての作曲とある。僕らの時代はもうすぐで、だからゆえに他人事ではないノスタルジーがここに聞こえるのかもしれない。

■曲目
プーランク;フルートソナタ、FP164
■演奏
Mathieu Dufour(Flute), Eric Le Sage(Piano)
■収録
1998年8月、la Grande Salle de L'Arsenal de Metz
■音盤
BMG 74321 632122 'Francis Poulenc - Integrale Musique de Chambre -'

Integrale Musique de Chambre

Bmg

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# by k_hankichi | 2013-12-14 22:12 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

朝の陽のひかりは弱々しくて・・・エルガーのソスピリ

冬の日の出はますます遅く、出勤時の陽のひかりは弱々しく僕らに注いでいる。低層にたなびく雲間に、次第次第に力を強めようとするが、薄黄の色が少し変わってゆくだけだ。

こんなときの音楽は、エルガーのソスピリ(Sospiri)作品70とエレジー(Elegy)作品58。

深い諦念の奥から、秘められし情熱がちろちろと沸き上がるよう。

サー・ジョン・バルビローリ指揮、ニューフィルハーモニア管弦楽団による。

British Composers-Elgar Orchstral Works

Warner Classics

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# by k_hankichi | 2013-12-13 07:25 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(3)


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