謎がいつまでも残る凄いミステリー・・・『鑑定士と顔のない依頼人』

年末にきてこんなに凄い映画に出会えるとは思わなかった。『鑑定士と顔のない依頼人』(ジョゼッペ・トルナトーレ監督、原題:La migiore offerta, The Best Offer、製作:イタリア)のことだ。HPはココ→http://kanteishi.gaga.ne.jp/

西洋美術にまつわるラブロマンスミステリーとでも云おうか。潔癖症な壮年男の恋でもある。なんだかめっぽう感情移入している自分に気付く。音楽も素晴らしく良い。

『英国王のスピーチ』で吃音治療医師役を演じたジェフリー・ラッシュが、ヨーロッパで活躍する一流の美術鑑定士兼オークションの裁定人を演ずる。かの映画を遥かに上回る快演、名演だ。

舞台はウィーンとおぼきし美しい街。ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、仕事の傍らで、個人的には美しい女性肖像画に魅せられたコレクターでもある。しかし彼は実際の女性に恋をしたことがない。そればかりか女性に触れたこともない。

そんな彼が、とある古屋敷に残された美術品の鑑定を依頼される。うら若い女性グレア(シルヴィア・ホークス、美しい!)が依頼主だ。しかし彼女は顔を見せない。どう応対したらよいか分からない。躊躇いがちながらも、少しずつ鑑定を進めてゆく。そして、彼女の姿を初めて目にした瞬間、ピグマリオンのように深い恋に陥ってしまう。二人の気持ちは近づいてゆき、心は柔らかに融和してゆく。

登場する名画も凄い。ルノワール『ジャンヌ・サマリーの肖像』、モディリアーニ『青い目の女』、ゴヤ『ベルムーデス夫人の肖像』、ブーグロー『ヴィーナスの誕生』、ティツィアーノ『ラ・ベッラ』、ボッカチーノ『ジプシーの少女』、クレディ『カテリーナ・スフォルツァ』などなど。

そんな豪華絢爛なる美の展開に、身も心もとろけていたら、最後に全く意外なる展開が待ち受けている。ミステリーだからここには書けないけれども、真実は何だったのか、観終わっても謎のまま放心してしまう。プログラムを買って、やっと朧気ながら分かることができた。

「この映画は、フロイトの故郷であるウィーンに始まり、カフカの故郷のプラハで終わる。」と製作クルーの誰かがいったそうで、たしかに最後に出てきたプラハのカフェ「ナイトアンドデイ」のシーンは、男の深層心理と哲学のすべてが凝集したかのような量塊で、ヴァージル、そして僕に迫る。

マーラーのアダージョのような音楽(エンリオ・モリコーネ作曲)が、いつまでも濃厚に残る、何とも奥の深い映画だった。

■スタッフ
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影:ファビオ・ザマリオン
美術:マウリツィオ・サバティーニ
衣装:マウリツィオ・ミレノッティ
■キャスト
ジェフリー・ラッシュ:バージル・オドマン
ジム・スタージェス:ロバート
シルビア・ホークス:クレア
ドナルド・サザーランド:ビリー
■原題La migliore offerta、2013年、イタリア

■映画トレイラー →http://youtu.be/3a5hxZ-chfM

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# by k_hankichi | 2013-12-25 17:33 | 映画 | Trackback | Comments(6)

小津映画を魅入って居るほど驚きに包まれるだろう・・・『「東京物語」と小津安二郎』

友人が薦めていた『「東京物語」と小津安二郎』 (梶村啓二、平凡社新書)を読み終えた。小津映画を魅入って居るほど驚きに包まれるだろうと思った。

著者は小津映画を愛して止まないひとであることがひしひしと伝わってくる。しかしそのなかにも、文学を生業としているがこその深く見据えた洞察と解釈がある。すべてのシーンについて、あたかも昔話を子どもに読み聞かせたあとの母親がふと漏らすような、人生の真理がある。

次のような一節も胸をうつ。

“ 子供たちの失敗と冷淡とエゴに深く傷つきながら、そのことからそっと目をそらす。自分とかつての仕事仲間の男たちの敗北と孤独に取り返しのつかない時間の流れを感じながら、そのことからそっと目をそらす。心の片隅で、自分が自分を騙し、目をそらしていることにうっすらと気づきながら。
 誰かに似ていないだろうか?
 原節子演じる紀子である。義理の親への気遣いの域を超えて、無意識のうちに、次男の嫁という自分の役割を過剰なまでに破綻なく演じ、尊厳を維持できる自分の位置を守ろうと努める。その平山家の中での安定した自分の位置の根拠であった夫、その死という現実からそっと目をそらす。そして自分に嘘をついていることにうっすらと気づいており、その気づきをぼんやりとした痛みとして抱え込んでいる。
 周吉と紀子は同じ種類の人間である。
 そして、おそらくは、彼らを見ているわたしたちも。”

また小津映画を見たくなった。今度はデジタルリマスター版でである。

「東京物語」と小津安二郎: なぜ世界はベスト1に選んだのか (平凡社新書)

梶村 啓二 / 平凡社

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# by k_hankichi | 2013-12-24 08:06 | | Trackback | Comments(2)

ケンプのバッハ曲集・・・色褪せぬモノクロ映画のように

ウィルヘルム・ケンプ・リサイタルと題した音盤を聴いている。

バッハが8曲、ヘンデルとベートーヴェンが2曲づつである。後半の4曲は、もともとはバッハ・リサイタルの音盤とは別の25cm盤LPからの復活だという。

一曲目から鬼気迫る。バッハの半音階的幻想曲とフーガ 二短調BWV903である。ケンプは地の果て、地獄の狭間を覗いてきてしまったかのような凄みで弾き尽くす。我を忘れそうな、いや、涙と汗とともにそうなっていたにちがいない、そういう演奏だ。

その業を反省するかのように、次なるコラール前奏曲「来たれ、異教徒の救い主よ」(18のコラール集、BWV659より)と、コラール「主よ、人の望みの喜びよ」(教会カンタータ第147集より)は、いたわるように撫でるように、優しい慈悲に満ちている。

コラール前奏曲が三つ続くが、深く静かに神の前に跪く。

シチリアーノ(フルートソナタ第2番変ホ長調BWV1031より)は、イタリアの潮風の香る、岩肌も所々のぞく丘のうえで、羊たちに囲まれながら静かに奏でられる笛だ。

ヘンデルのメヌエット ト短調(クラウザン曲集第二巻・第一組曲より)は、もうこれは宗教曲である。哀しみ慈しむ歌詞がつくかのよう。

締め括りはベートーヴェンのバガテル「エリーゼのために」。何百何千回と聴いている曲だけれども、ケンプの手にかかれば一つの淡い愛と惜別の物語になる。

更けゆく冬の夜は、色褪せぬモノクロ映画のように静かに目をつむってゆく。

録音:1953,3月(1〜8)、1955,5月(9〜12)
音盤:キング KICC2198

ケンプ・リサイタル

ケンプ(ウィルヘルム) / キングレコード

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# by k_hankichi | 2013-12-23 22:11 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)

信濃毎日新聞・・・桐生悠々の独立独歩の姿勢を胸に

先の鉄拳のパラパラ漫画で、「信濃毎日新聞」のことを知ったが、調べてみるとこの新聞社の歴史はかなり古いことが分かった。

日刊紙としての日本での第一号は、、1870年の「横浜毎日新聞」。1872年には「東京日日新聞」(現在の「毎日新聞」)、そして1873年にこの「信濃毎日新聞」の前身となる「長野新報」が創刊されている。「読売」は1874年、「朝日」に至っては1879年の発刊だから、「信濃毎日」は堂々の老舗なのである。

この新聞社が自ら紹介している社歴(http://www.shinmai.co.jp/shinmai/rekishi.htm)のなかで、一人の論説委員について、特出しで扱っている。

1933(昭和8)年 日本、国際連盟脱退。主筆桐生悠々、社説「関東防空大演習を嗤ふ」を掲載、信州郷軍同志会が反発して不買運動を展開。桐生退社。

この論説主筆の桐生悠々、歯に衣を着せぬ物言いで、当時の政界や軍部を明快な論理で批判し続けたよう。新聞は御上の僕(しもべ)ではないということを地で行った。

論理的・科学的・建設的に、明確に、明快に世相を斬るということの精神を、これからの報道にも期待したいなあと思った。

■桐生悠々(From http://www.shinmai.co.jp/shinmai/history/kiryu.gif)

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# by k_hankichi | 2013-12-22 13:29 | | Trackback | Comments(2)

鉄拳の最新パラパラ漫画『家族のはなし』・・・技術とアートの融合

鉄拳の最新パラパラ漫画『家族のはなし』は、技術とアートの融合だった。信濃毎日新聞(http://www.shinmai.co.jp/)の創業140周年を記念しての大作で、何と9分46秒もある。

この作品の制作手法は、まったく新しい。1コマ1コマを、新聞印刷機で実際に印刷しながら、それを同期をとって撮影して、その映像をアニメーション化しているのだ。一秒間のコマ数とカメラのフレームレートと印刷スピードの同期をとるのだ。

どういうことなのか、わからない人は制作過程のYoutubeを観ると何となく合点がいくかもしれない。

■メイキング『家族のはなし』(鉄拳)http://youtu.be/eiQ_huGhFwc

    
■本編『家族のはなし』(鉄拳)http://youtu.be/BPDUZg9fFiA
そしてこちらが本編。「家族は面倒くさい幸せだ。」という言葉が、心に沁み入る名作だった。

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# by k_hankichi | 2013-12-21 07:56 | 映画 | Trackback | Comments(3)


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