音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です

by はんきち

2018年 03月 31日 ( 1 )

『雨の日はソファで散歩』(種村季弘、ちくま文庫)は楽しめた。ご自身では徘徊老人日記と称しているけれども、その行動範囲は広い。場所だけでなく過去の記憶とその深さの範囲も広い。だからそれは徘徊ではなくて逍遥なのだ。

戦後間もないころの新橋駅前の川は、生活用水が流れ込まず深山幽谷の清水同様に澄み切っていて、土橋のうえから水底に白魚が見え、それが手づかみで捕れそうだったということに驚いたりもする。

途中でいきなりほかの人の文章が挟み込まれていて、その新鮮さに改めて感じ入ったりもした。

「例えば資生堂の一階の席でそこの細長い窓の前を通っている横丁を越して向うを見ると同じ化粧煉瓦を使った様式の資生堂の別な建物があってそれが大正期の日本でなければ建てられはしなかったものであることが解っていながらそれを背景に横丁の鈴懸けの並木が舗道に影を落としている具合が必ずしも日本とは思えなくなることがあった。」

資生堂の対面にまた資生堂があったのか。そうか。そうなのか。吉田健一の『東京の昔』からの抜粋に、心地よい吐息をつく。

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by k_hankichi | 2018-03-31 12:04 | | Trackback | Comments(5)