不思議に美しい、どこまでも美しい短篇集だった。『1984年』の人たちにこの本を読ませたいとつくづく思った。『きみのためのバラ』(池澤夏樹、新潮社)。
帯にこう書いてある。まさにそうだ。
「永遠に消えない人生の一瞬。恩寵のような邂逅・・・。」
特に良かったのは「レシタションのはじまり」。
争いごとをしたり、憎みあったり、何かを所有したい(男と女の色事を含めて)という欲望や、しがみつきたいというおもいに苛まれたりするときに、ある呪文を唱える。
すると憑き物がとれたように人々の心は鎮まるというのだ。
「ンクンレ」
その言葉に始まる、一輪の呪文を唱えることで、すべての卑しい心がふっと一瞬で無くなってしまう。
この呪文を世界に流布させたいと、心の奥底から静かに思った。