ぐずくずした週末をすごしながら、これはいかん、精神的にいかんと思った。耳に馴染む音楽もシューベルトの冬の旅やピアノソナタ21番ということになってしまい、さらには文字も頭に入ろうとはしない。
だから少し前、しゃっきりしていたときの食い物のことを思いだすことにした。
旨い中華焼きそばについて。
焼きそばは、子供のときに散々たべさせられて(含む焼きそばパン)、もはや好き好んで食べるものではなくなっていた。
しかし、その範疇に非ず、それどころかどのメニューを差し置いても注文してしまう、そういう五目焼きそばがある。
銀座の「鳳鳴春」が作るそれだ。
お店は銀座の泰明小学校の並び(本店)と、東京駅八重洲地下街、そして霞ヶ関の三店だ(と思う)。
初めて食べたのは大学生時代の本店。柔らか焦がし麺が、五目餡掛け野菜と共にあるその佇まいは、優しさと落ち着きと至福と愉悦とが共存している、謂わば一皿満漢全席の世界。
ただただ溜め息が出て、そして目をらんらんと輝かせながら食べ進むうちに、あっという間に無くなってしまい、途方に暮れなずむ心的夕方を迎える。
そしてお次。
最近の新しき発見である、チーズハドックについて。
新大久保のコリアン街で売っているファーストフードで、テレビでも多数取り上げられているから今更ながらなのだけれど、これをお土産に買い求めて家で食べたときの感銘が忘れられない。
アリランホットトッグは、中心には伸びるチーズがあり、その周囲にアメリカンドックの生地(ホットケーキ生地みたいなもの)が巻かれている。そして、最外周にはサイコロ大のポテトフライが埋め込められている。
熱々に揚げられたそれにココナッツパウダーをまぶし、ケチャップとマスタードを絡める。
どこからどう食べれば良いのか?
考えるまえにかぶり付いてしまい、二口目にはチーズが出現する。ギュスタフ・モローの『出現』とのあまりの違いに苦笑いする間もなく、口のなかの溶けたチーズに気を付けないと歯の裏を火傷してしまいそうになる。
このなんとも行儀の悪い食べ物にかぶりついている間に、ものの道理だとか筋だとかのことが、泡沫のように消えてゆく。それをさせてくれる魔法の食い物だ。
そうして僕の心は少しずつ快復していく。