「モーツァルト対ケッヘル、天才対凡庸・・・。この対立項のなかにあらわれる十九世紀ヨーロッパの諸相に目を注ぎながら、ステレオタイプに陥りがちなモーツァルト像、ヨーロッパ近代、ひいてはこうした対立項そのもののありかたについて、根底から揺さぶりをかけてゆく。これぞ「凡庸」の人、ケッヘルをあえて主人公とした本書の狙いなのである。」
こんな巻頭言で締めくくられて始まるケッヘルとその時代の軌跡を巡る旅は、なかなかどうして面白かった。『モーツァルトを「造った」男 〜ケッヘルと同時代のウィーン〜』(小宮正安、講談社現代新書』。
実に精緻にこの人と時代のことをまとめ上げている。ケッヘルは自らがまとめ上げたモーツァルト作品目録が出版されるのを見ることなくこの世を後にしたそうだけれど、この偉業があってこそ今日のモーツァルトへの敬愛と賛辞が続いているのだと思った。
古書店の店頭で見つけたこの本、奥付を見てみると、2011年3月20日第1刷発行とある。なるほど、知らなかった道理がわかった。
ケッヘルがモーツァルトに出会ったように、僕がこの本に出会えた幸運を噛み締めた。