旅先で買い求めた音盤にはその街の佇まいが記憶されていて、不思議な感興がもたらされる。
フランスの田舎のほうの街で買ったのはバッハのピアノ協奏曲全集。マレイ・ペライアが弾きながら指揮をした音盤だ。
この曲のそれぞれは、もともと別の楽器のために作られていたものだから、そのオリジナルの曲を知っているといきなり懐かしい友達が四つ角から飛び出てきて出くわしたときの驚きに似たものが呼び起こされる。
そして「あっ君、もしかして、あのときのヴァイオリンだった人ね?」とか、「オーボエ吹いてなかった?」とか、「お前ブランデンブルクじゃね?」とか訊ねたくなる。
とてもとても明るくてポカポカと心が暖かくなる、それでいて変な華美さや度を越したエグさが無い、素直な演奏の音盤。長く親しめるだろうことこの上ない。
それにしても、ジャケットのペライア氏の笑顔は何とも気さく。とことんたのしんで弾いている雰囲気が満載だ。
■曲目
J.S.Bach: ピアノ協奏曲第1番〜第7番(BWV1052〜1058)
■演奏
マレイ・ペライア(pf, 指揮), アカデミー・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
■収録
2000.5.14-16(#1, 2, 4, 5)、2001.5.12-13(#3, 6, 7)、Air Studio, Lyndhurst Hall, London
■音盤
ソニークラシカル SK89245, SK89690