どうしてそんなに早く本を読めるのか、と中学時代に友人から言われて、「ななめ読みさ」と返したらいたく感心されたことを思い出した。
あのころは学校の行き帰りの電車のなかで、コナン・ドイルや司馬遼太郎、井上靖、星新一、北杜夫などを次から次へと読み散らかしていて、今から思えば、斜め読みがあったりしたことを申し訳なく思う。
そんななか、「凄くななめよみ」していまったのは『日本の同時代小説』(斎藤美奈子、岩波新書)。べらぼうに沢山の作家たちと小説が紹介されていくので、だんだんと頭が飽和状態になる。
次から次へと詠んだことがない本がでてくるから、恍惚と不安二つわれにあり、ならぬ、焦燥と不安二つわれにあり、状態に陥る。なるほどうんうん、と頭で分かろうとしても読めていないから途方もない無力感に陥っていく。
もう一度、一年生からやり直し、と命じられて、一匹の犬がすごすごと野原に戻っていく。そういう自分だった。