凄く良いスクリューボール・コメディだ、とナンバーワン級に小林信彦が推していて、とても気になって買い求めた。そして酒を飲むのも早々に切り上げて観はじめたら一気に引き込まれた。
『ニノチカ』(エンンスト・ルビッチ監督、グレタ・ガルボ主演、1939年、MGM)。
実はグレタ・ガルボの出た映画は観ているようで殆ど観て来なかったことも気づいた。そしてこの女優が写真でよく知られた濃い化粧ではなく、素に近い出で立ちで出演しているそのなんとも言えない魅力にぐいぐいと惹きこまれた。
どこかでこの無表情な雰囲気を知っていると思いだそうとしたけれど、なかなか辿りつかない。
華やかさとは無縁な遣る瀬無いこの翳りはどこからもたらされるのだろうか、と思っているうちに、ああこれは誰もが心のなかに持っている哀しみの中枢と響くのだと思い当たった。
自分の気持ちに気づくことで心が拓かれてゆく女。恋する心がもたらす微かな希求。もう叶えられないものだと気力も何も失せてしまったなかで、それが本当の恋だと気づく。その幸せ。
これまで僕にとっては『ローマの休日』が最高の映画だったけれど、この作品の洒落っ気とサパサパとしたテンポはまた別の機軸で素晴らしい。
「いやぁ、映画って、ほんとうにいいもんですね〜!」と叫びたい夜になった。