田宮二郎は映画の中でカッコよく酒を飲んでいたけれど、実生活では全く飲めない人だったそうだ。元麻布の自宅に沢山の映画関係者を招いてパーティを開くのも好きだったそうで、飲兵衛の僕などからすれば、どうやって酒なしで酔狂な者共に伍して対していけたのか不思議だ。
藤田嗣治のような、ある種の諧謔性と純粋無垢さで対峙したのか、あるいはその場も全て演技で処していったのか、じっくりとお話しを聴いてみたい気がした。
『ウイスキー アンド シネマ』(武部好伸、淡交社)は、映画のシーンのなかに出てくる酒、それもウイスキーについてのエッセイで、「琥珀色の名脇役たち」というサブタイトルがついている。
日米欧、アジアのさまざまな映画に出てきたウイスキーのことが紹介されていて、ストーリーや台詞から自明なものはまあそうとして、映画のなかに出てくる普通ならば見過ごしてしまう瓶のラベルから言い当てているものもあって、よくぞそこまで調べあげたものだと感心する。
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』という映画では、ブレンデッドスコッチのフェイマス・グラウス(僕の愛飲酒でもある)がタンカレージンと共に彼女の家の居間に登場とある。また、晩餐会シーンで給仕が赤ワインを注ごうとしたら彼女はそれをさえぎり、「ウイスキーを」と言ったシーンも話題にしている。
田宮さんが生きていれば、このような本にも色々な意味でのネタが提供できたろうになあ、と思い懐かしみ、ナイトキャップの二杯や三杯が更に欲しくなった。