小津映画をデジタルリマスター4Kにした版のアンコール上映が始まった。
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http://www.kadokawa-cinema.jp/yurakucho/sp/movie/40219.html早速観たのは『晩春』。これで何度目になるだろうか。
自分が言われているかのような気がしてきて、涙腺が一気に緩んで目が霞んでしまった。
紀子…「あたし」
周吉…「うん?」
紀子…「このままお父さんといたいの」
紀子…「どこにも行きたくないの」
「お父さんと こうして一緒にいるだけでいいの それだけで 私 愉しいの」
紀子…「お嫁に行ったって これ以上の愉しさはないと思うの」
紀子…「このままでいいの」
周吉…「だけどお前 そんなこと言ったって」
紀子…「いいえいいの お父さん奥さんおもらいになったっていいのよ やっぱり私 お父さんの傍にいたいの お父さんが好きなの」
紀子…「お父さんと こうしていることが あたしには一番幸せなの」
紀子…「ねぇ お父さん」
紀子…「お願い このままにさせといて」
紀子…「お嫁に行ったって これ以上の幸せがあるとは あたしは思えないの」
ああ。こういうことを実際に聞かされたら、どうなってしまうだろうか。言われたくもあり、しかし、そうなったらそうなったでどうしよう。
映画館の壁には、封切り時の資料が掲示されていて、これを見ると次のように書いてあった。
◉嫁ぎゆく処女の悩ましい心の乱れ! 清純、原節子の魅力!
◉結婚直前の処女の妖しい胸のときめきがあなたの耳にハッキリ聴える。
◉娘の結婚に心くだく老父!
父を残して結婚する娘の悲しいこゝろ!
父と娘の涙ぐましい愛情が全篇に音立てて流れくる!
◉たった一度嘘をついた父親!
その嘘も娘の幸福のためだった!
◉娘の結婚の夜、ひとり波の音を聞いて淋しくほほえむ父親の老いた姿‼︎それはあたたかな晩春の夜だった!
映画のなかの父親の年齢(56歳と言っている)をとうに超えた僕は、美しさが増した映像とともに、こころ掻き乱された。