件の映画『海よりもまだ深く』のなかで、主人公の母親は、夫に死に別れているが、同じ団地の老輩が主催するクラシック音楽鑑賞の会でその寂しさを紛らわせている。
作品のなかで老輩が紹介しているのが、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲・第14番嬰ハ短調作品131。
レコードプレーヤーに載っていたのは懐かしき青空色の半円の欠片。CBSソニーのレーベルだった。
きっとこれはジュリアード弦楽四重奏団の音盤だな、と思いながらエンドロールを迎えると、まさにその通り。
これを聴いて、シューベルトが最早このあとに書く曲はない云々を呟いた例の下りまでが、映画のなかで説明されていて、もう無性に聴きたくなる。
夜の帳が下りたあとに静かに耳を傾け、そして今朝もそれを再び流す。
寒さが身に感じられるようになった晩秋にぴったりのひとときを過ごしている。
■演奏
ズスケ弦楽四重奏団
■収録
1980年1月、聖ルカ教会、ドレスデン
■音盤
プリリアントクラシックス、94672