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by はんきち

個々人が持っている薄情さを指摘されるような小説

神主の仕事はあるものの、夏から秋は嬬恋高原でキャベツ収穫のアルバイトに身を粉にする。やりたいからではなく仕方がないからという惰性の人生。

時には女を求めるものの深追いはしない。相手の領域には入り込まない。しかか自分が傷つけられそうになると極端な防衛に走る。客観的に自分を見つめられない。

そんな遣る瀬無さと自己中心さが満載の男の日々を描いた作品だった。『薄情』(絲山秋子、河出書房新社)。2016年間の谷崎潤一郎賞受賞作。

主人公の宇田川静生はつぎのように考える。

“嬬恋だから隔離されているのではなく、どこだって同じことだ。お互いの姿がよく見えて精神的にも交流があると信じているだけで、人間は一体一体が遺伝子とかいう、もっともらしい名前のついた、透明な水槽に隔離されて飼われているだけではないだろうか。”

“あまりものを言わずに暮らしていると客観性を失う。自分の都合で考える癖がつく。思うことと口に出して言ったらおかしいことの区別が曖昧になってくる。客観性に乏しくても嘘を言うことができないから余計に自己矛盾が増すのだ。”

本当はどのような人にもある薄情さというものを、この遣る瀬無さの男を通じて明らかにさせていく。

心のそこで繋がる、ということは無い世界がそこにあって、そうなってはいけないと思うほどにそうなりそうで怖ろしくなった。

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by k_hankichi | 2018-08-02 23:38 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by maru33340 at 2018-08-03 07:40
実は僕はこの小説半分位まで読んでちょっとしんどくなりギブアップしたのです。
保坂さんの持論の「小説は読者に幸福感を与えるもの」(要約しすぎだけど)という考えに賛成する今日この頃であります。
Commented by k_hankichi at 2018-08-03 08:21
maruさん、そう思うところ大です。薄情なところがある僕だから、自戒のために読み進めました。