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by はんきち

語り手の復活・・・『真夜中の子供』

えっ、そんなことが有るのか?というような境遇。ふつうにいつも歩き回っている都街角の片隅で起きている出来事。触れたこともなく卑近な例も知らない世界なのに、そこに引き込まれていく。

『真夜中の子供』(辻仁成、河出書房新社)は、博多中洲に生まれた無国籍児の物語だった。

可哀想な話だと思いながら、しかしその先を知りたいともどかしくなる。狭い街区のなかで逞しく成長していくそのさまに拍手を送りたくなる。ついには博多祇園山笠を担ぐ男衆のなかの若い一人として、立派な「個」として人々に受け入れられていく。

自分だったらどうするのか。どう周囲に対峙していくのか。

ありえない境遇ゆえに、読み手は自分にも照査しつつ引き込まれていく。

彼の父親は誰だったのか。さらにまた彼に好意を寄せている少女の母親は誰なのか。

物語は大団円に向かってぐるりと回っていく。円環的思想かと錯覚しそうになる。

辻さんの語り手としての力量は、あの辛苦を超えたのちに再び蘇った。そのことが嬉しい。この先にまた新しい物語が次々と生み出されていくだろう。楽しみが一つ増えた。

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by k_hankichi | 2018-08-01 17:25 | | Trackback | Comments(2)
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Commented by maru33340 at 2018-08-02 07:10
そういえば久しく辻さんの小説読んでないなあ。
Commented by k_hankichi at 2018-08-02 07:42
maruさん、切れ味が蘇ってきたよ。