「こんなにお洒落な歌集を出されて、この先どうなされるのですか?」と訊ねたくなった。装丁からして、表と裏のデザインの組み合わせが九通りあるそうで、そののどれになるのかは買ってみなければわからない(もちろん店頭であれば外函を開けてみればわかるけれども)。
『水中翼船炎上中』(講談社)は穂村弘さんの第四歌集だということで、しかしずいぶんと久しぶり。内容は幼少時代から小中、高校生、そして大人になって、また母親の死を経て現在に至るまでの其々の気持ちや記憶を詠んだものから選ばれている。
共鳴するもの、まだよく分からないもの、いろいろあるが、僕の好みを三つ選べば次のようになる。
子供時代の記憶から一首。※
五組ではバナナはおやつに入らないことになったぞわんわんわんわ
思春期へのカウントダウンの時期のものから一首。※※
意味まるでわからないままぱしぱしとお醤油に振りかける味の素
母の死に際しての一首。※※※
月光がお菓子を照らすおかあさんつめたいけれどまだやわらかい
三二八首のそれぞれは、まだまだ味わい噛み締めていく余地がある。
時間を永遠に変えるのが歌人だ。
※ 二組ではお金も持ってきて良くって、150円までは大丈夫らしい。(うそです)
※※ 僕の実家ではご飯に塩ではなく味の素を掛けて食べさせられた。いつの間にか止めになった。きっと「頭が良くなる」という話がデマと分かったからだろう。
※※※ この章は読めば読むほど心に沁みる。