記憶の彼方からきて存在の彼方へ去っていくクァルテット
それは遠く記憶の果てからだんだんと近づいてきて聴こえてきて、そして自分を包み込んで、そうしているうちにまた雲の先の遙かなる未来へと消え去っていくような演奏だった。ボロディン弦楽四重奏団によるラヴェル/ドビッシーの弦楽四重奏曲集の音盤。
収録は1950年だから、楽団結成初期のもの(Vn: Rostislav Dubinsky, Yaroslav Alexandrov, Va: Dmitri Shebalin, Vc: Valentin Berlinsky)。
この演奏を聴いているとロシアの人たちの柔らかなそして迸る感性というものを知る。社会主義体制のなかにあって、よくぞこんなに敏感でかつ優しい表現ができたものだと不思議な気持ちにもなる。
これまで聴いてきたどのクァルテットよりも、馥郁たる香りが漂っていて、そして、あまりにも懐かしい気持ちになる。そしていま、世知辛く小さなことにもくよくよして生きていることが、なんだかとても取るにたらない小さなことなのだと自然と気づかせてくれる。