散りばめられる珠玉の言葉たち

読み終えて、深く、そして綺麗な吐息が出る小説だった。紹介してくれたブログ友人に感謝。

『地球にちりばめられて』(多和田葉子、講談社)は、母語を忘れそうになりながらもひたむきに生きる女性の姿を描いている。今は無き地への郷愁とともにその言葉に飢えながら、ヨーロッパの地に腰を据え、しかしてその地の言語に完全に染まるわけではなく、新たな言語を作り出して、人々の合間を繋いでいく。

彼女の周りにはヨーロッパ人、エスキモー、インド人、そして同じく極東の島国から出てきた人などが現れ交流していく。

彼女が喋る言葉は、次のように表現される。

“彼女の顔は空中にある複数の文法を吸い込んで、それを体内で溶かして、甘い息にして口から吐き出す。聞いている側は、不思議な文章が文法的に正しいのか正しくないのか判断する機能が停止して、水のなかを泳いでいるみたいになる。これからの時代は、液体文法と気体文法が固体文法にとってかわるのかもしれない。”

その言葉は、ちょっとたどたどしかったり、どこの訛りなのか分からぬものが入っていたり、しかし、ヨーロッパの北の人たちが聞けばおおかたわかってしまう奇妙な簡明さを持ち合わせているという。

僕もそんな言葉を発明して、それをいとも自然に使いこなせれば、どんなに楽しいだろうか。いや、確実に身につけて使い倒したい。

メルヘンと冒険と、恋と孤独と、暗さと明るさとが絶妙に入り混じった珠玉のような小説だった。

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Commented by Oyo- at 2018-06-21 20:57 x
最後のお言葉、《メルヘンと・・・・・》すごく的確で素敵です。
Commented by maru33340 at 2018-06-22 07:20
気になる本なり。
Commented by k_hankichi at 2018-06-22 08:23
おようさん、maruさん、故国とは、故郷とは、それが無くなったとしても、言葉のなかに生きている、ということを伝えて安堵させてくれる作品でした。
by k_hankichi | 2018-06-21 19:13 | | Trackback | Comments(3)