どこを切り取っても絵になる街というのはそれほど多くはなく、それはやはり仏蘭西や英吉利の街に留めを刺す。
乗り合いに乗つていてふと窓から空を眺めたときであるとか、汽車が駅を通り過ぎるときに雨滴が窓を伝わりながら流れているときにもそうであつて、車窓の外を流れていく草原の景色ですら感じ入る。
旅の最中に出会うシルエツトというものも美しい。
汽車で隣に座つて一心不乱に原稿に目を通している働き盛りと思しき女や、楽しそうに談笑しあう若い婦人たち。切り取つた活動写真のシルエツトとしか思えない。幻想や夢を呼び起こす。
旅のなかで更に酒があれば楽しくてだから『汽車旅の酒』という少篇のことを直ぐに思い出した。