胸の鼓動が高まる一方のエマールとアーノンクールによるベートーヴェン
昨年末に立ち寄った馴染みのレコードショップで、一度手に掛けながら棚に戻したのが何の音盤だったか記憶が定かでなかった。
年始はそのことが頭にずっと残っていて、先週末に漸く足を運んだときにお店の人の顔を見るや否や、口から言葉が出た。その曖昧さに我ながら当惑した。
「この棚のこのあたりに、ヘレヴェッヘだったかアーノンクールだったかの何かの組物、確か3枚か4枚組、有りませんでしたか?」
お店の人は、慌てふためきながらも、あれやこれやと探し回ってくれて、これかな、あっこれでは?、とひとつひとつ見せてくれる。
「あからありがとうございます、でも違うなあ」
そういうことが二度三度繰り返され、しまいには次のように漏らしている。
「もしかすると酒で酔った頭で見た夢かもしれません、最近、まるで現実のような夢をよく見るんです」
お店の人が呆れて振り返っていたときに、それはあった。光輝いていた。
ピエール=ロラン・エマールが弾く、ニコラウス・アーノンクール指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団によるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集。
ベートーヴェンのこれらの曲は沢山聴きこんできたけれども、これが好きだという音盤がなく、クレンペラー/バレンボイム盤も、ジャクリーヌ・デュ・プレの生き様の映画を年末に観て以来、金輪際聴くまいとしていた。
そんな境遇を、アーノンクールとエマールは鮮烈なる爆発的エネルギーとともに打ち破ってくれた。
こんなベートーヴェンならば、毎日が変わる。生き生きとやる気と自信が甦る。自由闊達という言葉が相応しい演奏に胸の鼓動は高まる一方だ。
■収録
第1番 2001.6.23-26、グラーツ
第2番 2001.11.2-23、ウィーン
第3番 2000.6.28-30、グラーツ
第4番 2002.6.26-28、グラーツ
第5番 2002.6.21-24、グラーツ
■音盤
TeldecClassics 0927 47334-2