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by はんきち

あまた居るタバサのなかでも

東直子の小説を読んだのは初めてだと思う。そしてその感性に驚いた。『薬屋のタバサ』(新潮文庫)。

そしてまたこれは、「奥様は魔女」以来、世界中に次々と生まれていっただろうタバサたちのなかでも唯一無二なタバサだと分かる。

読みはじめて暫くは、主人公たちの性別がどちらなのか混乱する。それが過ぎると、彼らの生い立ちが気になり始める。さらに経ると周辺の人々や街のあらましが知りたくなる。

知りたくなれどもその何れもが霧に包まれていて、さながら「雨月物語」の映画の景色のように朧気だ。

しかし怖くはない。妖しくもない。そこには生きとし生けるものたちの素の姿、達観と力みを消し去った悟りのような気に満ちている。

解説で藤谷治さんが次のように書いている。

“女と男の出会いと生活、言葉のやり取りと心のうつりゆきを、きめ細かに描いているにもかかわらず、恋愛小説と言い切ることができない”

“読み終えたあとの放心には、なぜか慰安の響きがある。これが僕には、いつまでも不思議でしかたがない。”

いかに理解しがたいこと、不条理とでもいわねばならない出来事が前に現れても、受容し恭順していく。それは諦観とは一線を画す、自分たちを大河の流れのなかの一滴だと見なすような自然の姿勢なのだと思った。

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by k_hankichi | 2017-08-25 07:17 | | Trackback | Comments(0)
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