その絵をどうしても観たくなる小説

ベルンハルト・シュリンクの『階段を下りる女』(原題:Die Frau auf der Treppe、新潮クレストブックス)を読了。そこには無いと分かっていながらも、オーストラリアの美術館に、その絵を眺めに訪れたくなった。

表紙カバーの内折り側に、次のようなライプツィヒ国民新聞(Leipziger Volkszeitung)の書評が載っている。

“彼らの人生において何が実際に可能だったのかは、この機知に富んだ、やさしくてときおり悲しい小説では答えが出ないままだ。この本は「殻にこもった生活」、愛の不思議さ、年老いること、つかむことと手放すこと、回顧と出発について語っている。”

言い得て妙だ。

主人公の男は、曾て愛した女・イレーネのことを想いながら、自分の人生を振り返って次のように述懐する。

“いまでは年を取ってしまったが、それを嘆こうとは思わない。若者にはこれからの人生があるからといって、羨む気持ちもない。もう一度人生をやり直すなんてまっぴらだ。だが、彼らが背負っている過去が短いという点は、羨ましく思う。若ければ、過去をすべて見渡すことができる。振り返るたびにその意味が変わるとしても、過去に意味を与えることができる。いま、自分の過去を振り返ってみると、何が重荷で何が恵みだったのか、そもそも成功に価値があったのか、女性との出会いで何が得られ、何が拒まれたのか、もはやわからなくなってくるのだ。”

男にとっても、女にとっても、人生の黄昏を感じるようになるころ、再びにあらたな意味を掴むことに導いてくれるような作品だった。

それにしても、階段を下りるイレーネの絵を観てみたい。


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Commented by maru33340 at 2017-07-07 08:06
これは新刊やないかあ!
読みたい思てたんや。
Commented by k_hankichi at 2017-07-07 08:12
maruさん、ええで!
Commented by Oyo- at 2017-07-08 16:50 x
ご説明の内容が何かとてもドイツ的・・・訳者はどなたなのか・・読んでみたいです。
Commented by k_hankichi at 2017-07-08 20:14
おようさん、翻訳は松永美穂さんです。
by k_hankichi | 2017-07-07 07:53 | | Trackback | Comments(4)