佐藤正午の新しい小説『月の満ち欠け』(岩波書店)を読了。人は死んでもその魂や記憶は次の世代に繋がっていく、ということを恋愛の中に織り込んで物語っていく作品だった。
子供の頃、絵本「ふしぎなえ」(安野光雅)の世界に虜になっていて、日を置かずに何度も眺めていた。また、母親が使っていた三面鏡の左右の鏡を並行にしてその間に頭を突っ込んで、どこまでも続く自分の顔の行く末をいつまでも見ているのが好きだった。
そういうときに、父母から祖父母、そしてそのまた昔に繋がる系譜のことを想起して、あたまがぽうっとなったりしたのだけれど、その感覚に近いものが、この小説のなかには流れていた。
何度か読み返して、人と人のつながりの不思議さに吐息をつくことになりそうだ。