『ランス美術館展』(損保ジャパン日本興亜美術館)を観た。展示の半分はフランス近代画家たちによる作品、そして後半はレオナール・フジタの作品の数々だった。何よりも感銘したのはやはりフジタだった。
僕にとってそのなかでも最も素晴らしかったのは、ランスの平和の聖母礼拝堂のフレスコ画の下絵。それは素描と称してよい筆致なれども、込められた情念の深さは半端ではない。これをもとに彩色を施したフレスコ画が出来ていったのだが、結果の素晴らしさ以上に沁み入るものがあった。
それはモノクローム映画の作品が、俳優の情念をより深く伝えていくる場合があることに似ている。と同時に、作家の精神がしっかりと伝えられるほどの完成度だからこそなのだ。
藤田嗣治は、紛うことなくその世代の芸術家の域を超越していて、宗教はおろか何事をも超越して宇宙レベルに繋がる崇高さに至っていた。