週末に時間潰しに訪れた喫茶店は、昭和の空間そのものが漂っていた。壁には家紋の幾つかが並べられている。だから江戸の空間と言っても良いかもしれない。
客は僕の他には、ボランティアについて話し込むおばさま二人だけ。あとから少し疲れた風情の夫婦が入っては来た。
止まったような時間の店内には、大きめな音量でBGMが流れている。
煩わしいな音量絞って下さい、と云おうかなとしていたら、出されたコーヒーが滅法美味く(それが400円で更に驚き)、だから読みかけの随筆本に興が乗った。
一息付いたころ、再びBGMが気になってきた。不思議な曲の並びだ。どうなっているのかしらん。
「君を信じて」(千住明)
「葦笛の踊り」(チャイコフスキー『くるみ割り人形』から)
「シング・ザ・ストーリー」(リベラ)
「歌う血液」(松井咲子)
「彗星物語のテーマ」(羽毛田丈史)
「ウォーキング・イン・ジ・エア」(クロエ)
「アマポーラ」(寺井尚子)
「Ave Mundi」(ロドリゴ・レオ&ヴォックスアンサンブル)
時間は空間と共に融解し、ポップスともイージーリスニングとも境界が不確かな流れのなかに霧消していった。