先週末、馴染みの中古レコード店にいつものように立ち寄り、ひととおり店主とお喋りをしたあと音盤探しをしていた。
その時、新しい曲が掛かり始めた。不思議なる魅力を備えたヴァイオリンソナタだった。
そこには少し俯きがちな姿勢から、新たな明日を見つめようというような雰囲気があった。儚さ(少しの不安)に健全なる溌剌が混じった様相。手は音盤に次々と触れながら、耳と頭はその音楽に捕らわれて、生ける浮遊人のようになっていた。
第二楽章に入って更に心が震えた。こ、この繊細さはなんなの?いきなり女言葉になりそうになる。
第三楽章はこころに寄せては返す、たおやかなる波だ。その波は僕をしっかりとさせようと緩急を混ぜながら、並走者のように触れるか触れないかのようにしてくれている。
クライマックスに於ける、温もりが何層の厚みになったような血潮に気倒されそうになりながら、それは締め括られた。
思わず店主を見返した。
「はんきちさんが好きそうかなと思って」
黙って頷いた。そして確かに買い求めていた。
「この音盤が無くなると淋しい・・・」
後ろ髪を引かれるようなその声が、店をあとにするときにこだましていた。