ここのところ、仕事は剣山の上を歩いているかのような状態で目まぐるしく、しかしそれでいて読みたい本もあり、二つの刺激の間を行き来していた。緊張が押し寄せてしんどくなっていた。
疲労が押し寄せたせいか、昨晩は泥のように床に着いた。
酷い夢に苛まれて目覚めるかと思ったが、意外にもこの未明から朝にかけて見た夢は音楽番組だった。
それは(夢のなかは)日曜日の弛んだ日差しが当たる昼下がり。僕は時間をもて余していた。
たまたま点けたテレビからは、オーケストラの演奏が流されていた。聞いているとそれは『リハーサルを一緒に』という民放番組で、演奏は読売日本交響楽団によるもの。さまざまな曲の、さまざまなパートの練習風景を順繰りに見せてくれる。それも奏者の居る場所から撮影し、そこから指揮者を見遣る目を感じ、そしてまた指揮者からの合図を体感できるようになっている。
これは素晴らしい、と身を乗り出して見入り、30分番組を堪能した。
さてこれで楽しみは過ぎたな、と思っていたら、続くのは『クイズ、楽聖一番!』という番組。さまざまな趣向が繰り広げられるなか、凝視したのは「クラシック音楽イントロ、ドン!」というコーナー。
番組で認定された音楽通が三人壇上にあがり、クイズに答えてゆく。よくみると回答者のなかには音楽通として知られているmaru氏(ブログでも知られている)が出場している。「あーっ、出てる!!」と思わず声がでる。
バッハ、ブラームス、フォーレ。回答者たちはいとも容易く答えてゆく。
しかしどうだ。
次のピアノソナタが誰も答えられない。イントロを過ぎて主旋律に入り掛けている。
「ハイドンのピアノソナタ第8番!」
僕は声を挙げる。
その瞬間、打ったような静けさ。僕はその番組会場の観客席にいてスポットライトが当てられている。
一同から拍手。回答者たちも唖然としながら、つられて拍手している。
「どうしてお分かりになりましたか?」
インタビュアーにマイクを向けられる。
「ど、どうしてって、以前からCDでピアノソナタ集を聴いていましたが、あの女流ピアニストの演奏が心に刻まれていたからなんです」
その瞬間、ハイドンが会場に降臨した気がした。
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