夏風邪を引いた。喉のイガイガがなんとも苛立たしい。昨日今日と早めに帰宅して、ベッドで寝そべって養生をする。エアコンは風邪に良くないので網戸のまま外気を入れるが、おそろしく暑い。
それでも医者で処方された薬のために身体は怠く、強い眠気が襲う。暑さのなか猛然とまどろんでいくなかに季節外れの鶯が囀っていた。
ずいぶん経ってから目が覚めた。依然身体は重く、喉の痛みは相変わらずだ。急に咳き込みが襲うのが恨めしい。
これはもはや下り坂なのだ。
読みかけていた『「下り坂」繁盛記』(嵐山光三郎、ちくま文庫)を、やにむに手に取った。
“上昇志向というのは、人間だけに課せられた罪業である。自分では下降しているつもりなのに、いつもまにか、なにかをしでかしてやろうという野心がふくれあがる。鴨長明の隠遁は、怨念の思いは浄化したものの、人間の業からは逃げられなかった。メラメラと燃える野心が生きていく宿命である。”(「序章 「下り坂」の極意」から)
だんだんと肩の力が抜けていく。自然の空気の流れを甘受しようという気持ちになっていく。
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