“「小早川家の秋」(1961)の原(節子)さんと司葉子さんが話すシーンも怖い”と、小津組のキャメラマン・川又昴が書いていた。
その謎解きをしている。youtubeでは映画を改めて観ることが出来なかったので、中国語版の動画サイトで再び映画を飛ばし飛ばし観た。
次のようなシーンがあって、たしかにこれはよく考えれば怖い、というシーンなのかもしれないと思った。
小早川秋子(長男の未亡人)・原節子:「へえー、そおう、そいでそのひとどうした?」
小早川紀子(次女)・司葉子:「出てくる御馳走、片っ端からみいんな綺麗に食べてしもて、あとでバンド緩めてますの」
秋子:「おほほほほほほ、よう食べる人、よっぽどお腹空いてたのよ」
紀子:「そうかもしれんけど、そのあと、ホテルのご飯済んでから、二人で中之島歩いてたとき」
秋子:「ああっ、二人きりにもなったのね?」
紀子:「ええ、みんなが行って来い行って来いって」
秋子:「そおう、それで?」
紀子:「そしたら、あなた洋食お嫌いですかって、うちに訊きますの。あなたは?って訊き返したら、そんなに食べといて、僕、洋食は、それほど好きではありませんなんて。おかしな人や」
秋子:「でも面白そうなひとじゃない、それからどうしたの」
紀子:「それで、人のいないところ行ったら、いきなりうちの手ぎゅうって握って」
秋子:「ふううん、で、あなたどうした?」
紀子:「うちはぎゅーっと握り返してやった」
秋子:「そしたら?」
紀子:「あなたの手、えらい冷たいですなあって、なかなか離してくれへん、生暖ったかい手えでなあ。そのくせ、人のいるとへきたら、急いで手を放そうとするのよ、うち、わざとそのままぎゅーって握っててやった」
秋子:「そしたら?」
紀子:「いややわ、お姉さん、うちにばっかり言わせといて。。。、お姉さんのところ、どうですの?」
秋子:「なあに?」
紀子:「おじさまからの縁談」
秋子:「ああ、あたしなんて、こんなお婆さん」
紀子:「はいっつ、百円!」
秋子:「なあに?」
紀子:「こないだ、約束したやないの、お姉さんがお婆さん言うたら百円貰うって」
秋子:「ああ、そうか・・・はい、百円」
紀子:「おおきに」
秋子:「まさおちゃん、あぶないわおよ。みのるさん、だめ良く見てあげなければ。」
紀子:「ねっ、どうですの、お姉さんの縁談」
秋子:「あたしなんか・・・まだ何も言えやしないじゃないの、手え出すの、ちょうと早すぎたわ、・・・・ふふふふふん」
紀子:「ああ、いいお天気」
夫に先立たれた義理の姉、秋子の、男に対する執拗な(性的なるところまで透けるほどの)興味の深さ。
そしてそれにたいする、妹の、うぶな、しかしその見えていない部分を知らないままの健全さ。
あけすけに語るその気持ちを操るように知ろうとする姉の女としての興味の姿勢なのだ。
姉の、造り酒屋の家に嫁入りしてしまったことへの後悔、というような事柄もそこに漂っている。
夫に先立たれ、大切なことが欠けてしまった自分。そこに気持ちが落ち込みそうになるとき、秋子は川辺で石を投げる子供たちに急に言葉掛けをする。
これは、明るい未来に包まれている妹に対して、彼女が持てる唯一の矜持を示しているのだと思った。
※Youtubeには、動画のアップがないので、こちらを参照。