猫よりも犬派だった。犬をみかければ、つねに「ほーれドドン」(※)と呼びかける。それに対して猫を見かけると、どうしても挑む姿勢が出てしまっていた。
そんななか、このあいだの新聞(日曜版の 日本経済新聞・美術特集「美の美」)で、歌川国芳のことを知った。浮世絵は苦手だったのだけれど、この絵で一変させられた。
『其のまま地口 猫飼好五十三疋』という作品だ。この猫たちは実にリアルで、そしてまた可愛げがある。
知りつくし愛しつくしていなければ、これだけのものは描けない。所作のひとつひとつを見ているだけで、気持ちが伝わってくる。
花散らしの雨が降るなか、猫開眼の春の日だった。
※ドドン:実家で飼っていた犬(チロ)の別称。母親はチロと呼ばず、何故かいつもドドン、あるいはドドンガドンと呼んだ。このため、子供ら(われわれ)も、チロと呼ぶことをよりも、ドンであるとか、ドドン、ドーンドン、と呼ぶことも多くなり、しまいにどれが本名なのかごちゃごちゃになっていった。
■『其のまま地口 猫飼好五十三疋』(そのまま-ぢぐち・みやうかいこう-ごじうさんひき)嘉永元年(1848年) →
http://en.wikipedia.org/wiki/Utagawa_Kuniyoshi#/media/File:Cats_suggested_as_the_fifty-three_stations_of_the_Tokaido.jpg
日本橋:「二本だし(2本の鰹節=出汁)」、 品川:「白顔」
川崎:「蒲焼」、 神奈川:「嗅ぐ皮」
程ヶ谷:「喉かい」、 戸塚:「はつか(二十日鼠)」
藤沢:「ぶちさば(鯖を咥えたぶち猫)」、 平塚:子猫が「育つか」
大磯:「(獲物が)重いぞ」、 小田原:「むだどら(鼠に逃げられて無駄走りのどら猫)」
箱根:「へこね(鼠に餌を取られてへこ寝する)」、 三島:「三毛ま(三毛猫は魔物、化け猫)」
沼津:「鯰」、 原:「どら(猫)」
吉原:「ぶち腹(腹もぶちだ)」、 蒲原:「てんぷら」
由比:「鯛」、 興津:「起きず」
江尻:「かぢり」、 府中:「夢中」
鞠子:「張り子」、 岡部:「赤毛」、
藤枝:「ぶち下手(ぶち猫は鼠取が下手だ)」、 島田:「(魚が)生だ」
金谷:「(猫の名前が)タマや」、 日坂:「食ったか」
掛川:「化け顔」、 袋井:「袋い(り)」
見付:「ねつき(寝つき)」、 浜松:「鼻熱」
舞坂:「抱いたか」、 新居:「洗い」
白須賀:「じゃらすか」、 二川:「当てがう」
吉田:「起きた」、 御油:「恋」か「来い」
赤坂:「(目指しの)頭か」、 藤川:「ぶち籠」
岡崎:「尾が裂け」、 池鯉鮒:「器量」
鳴海:「軽身」、 宮:「親」
桑名:「食うな」、 四日市:「寄ったぶち」
石薬師:「いちゃつき」、 庄野:「飼うの」
亀山:「化け尼」、 関:「牡蠣」
坂下:「アカの舌」、 土山:「ぶち邪魔」
水口:「皆ぶち」、 石部:「みじめ」
草津:「炬燵」、 大津:「上手」
京:「ぎやう(捕まった鼠の悲鳴)」