シューベルトのピアノソナタ第21番変ロ長調D960の三人のピアニストによる比較、その3。第3、4楽章。
■スティーヴン・コヴァセヴィッチ(Stephen Kovacevich)
・第3楽章:Scherzo: Allegro Vivace Con Delicatezza。おいおい、そんなに性急に弾くなんてどうしたのかな。急いだあとの緩さも何だかぎこちない。一、二楽章で集中力を使い果たしてしまったのか。それとも、やっぱりワルツの軽快さが苦手なのかな、空回り気味のスティーヴン。3分57秒と少しだけ早めである。
・第4楽章:Allegro, Ma Non Troppo。おお~復活したねえ。唸り声も聞こえるよ。君は踊り下手だから、第3楽章だけはあんなになってしまったのだね。僕も下手だから君の気持が分かる。しかし段違いの凄さだ。君も唸り声が上がり続ける。「終盤の例の溜め」(はんきちによる命名です)の箇所も申し分ない。僕までもが思わず力が入るよ。そして大団円。背筋がぞくぞくと競り上がるような感興とともに迸り出る。凄いぞスティーヴン、マルタも感激していることこの上ない。本当に名演です。8分6秒。
■イエネ・ヤンドー(Jeno Jando)
・第3楽章:スティーヴンと同じようにちょっとぎこちない。ハンガリーの男でもワルツ舞踏は苦手なのだろうか。しかし、いやいやどうして、彼の緩い旋律の具合は素晴らしい。4分5秒。
・第4楽章:出だしからリズムを刻みながらズンズンと進んでいく、格好良いねえ。強、弱、強、弱。おおお~、この力の入りようはすごいぜ。「終盤の溜め」は、スティーヴンには叶わぬが、そこから終わりまでのひこれって「お値段以上、ニトリ」なんてものではなく、廉価盤で買い求めては申し訳ないものなのだ、と思うことしきり。8分22秒。
■シュ・シャオメイ(Zhu Xiao-Mei)
・第3楽章:ちょっと硬そうな表情のジャケット写真とは裏腹に、コロコロと零れ落ちそうな旋律の連なり。4分4秒。後半の転調後の緩い旋律も堂々としていて、すばらしい落着き振りだ。
・第4楽章:少し早目のテンポで挑みかかるシュ。性急すぎるきらいがあって、運指がちょっとこんがらがる。なにか出口を見つけ出そうと、も掻いているような感じにも聴こえる。あなたが追い求めてきたものは何なの、シュ?「終盤の溜め」をどのように迎えて対応すべきなのか。その心の準備をする間もなく、構築性について悩んだまま、頭だけが空回り気味で、それは曲の終わりまで続いてそのまま放置されてしまった。7分50秒と三人の中で一番早い。
◇夜のプール。