三つのシューベルト(その2)

シューベルトのピアノソナタ第21番変ロ長調D960の三人のピアニストによる比較、その2。第2楽章。

■スティーヴン・コヴァセヴィッチ(Stephen Kovacevich)
Andante Sostenuto。演奏しているホールの響きが良いことに、改めて気付く。コヴァセヴィッチの鼻息がざらざらと荒く聞こえてくる。沈鬱なる旋律はリヒテルの演奏のそれと似ていて、しかしアファナシエフのものに比べれば遥かに明るくそっと寄り添う。天空のゴンドラに乗っているかのような心地よさ。そしてその存在は消え入りそうになる。そこから昔を思い出す。古き良き時代のことを。エネルギーに満ち溢れていたあの日々のことを。苦しさもあったけれども、良き時代だったのだ。主旋律の下側を支える音階は、いつしかダダダダーンというベートーヴェンの「運命」の主題のように変わっている。過ぎ去った昔の沈鬱なる想い出。でもそれは「希望」というものだった。ああ、そうだったんだ。安堵がある。憧れとも重なる希求の世界。ベートーヴェンの交響曲第9番の第2楽章のようにそれは静かに終わる。9分28秒。

■イエネ・ヤンドー(Jeno Jando)
朗々とピアニストは弾きはじめる。また彼の口ずさみが聞こえる。しばらく静かなる波間に漂っている。確実で明朗だった青春時代を想い出し、苦節もあったのだけれども、それはそれで良かったのだと自分自身で納得する。哀愁を確信に変えていく、しっかりと噛みしめるようなる鍵盤だ。10分10秒。

■シュ・シャオメイ(Zhu Xiao-Mei)
彼女の演奏は、ドキュメンタリーのように語る昔話だ。過ぎ去りし時を想い出し、そのころのひとつひとつの事柄を、ああだったわね、こうだったわね、と伝えてくる。知ってるよそのことは、と相手が答えようとも、ああだったのよ、こうだったのよ、と説明してくる。昔のことをよくそんなに覚えているなあ、と感心しながらも、思わず耳を傾けてしまう。三人の中で最も早い8分59秒。

◇カリフォルニアはもう春である。
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Commented by およう at 2015-03-01 17:04 x
ちょっと留守しておりましたらはんきちさんはご出張でカリフォルニア^^ 機内ではシューベルト三昧でいらっしゃる・・・帰路は何でいらっしゃいましょう、楽しみわくわく(^_^)/
Commented by k_hankichi at 2015-03-01 17:47
おようさん、シューベルトのソナタに本当の意味で開眼できた感じがあります。
by k_hankichi | 2015-03-01 00:44 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(2)