『天国の囚人』(カルロス・ルイス・サフォン)に翻弄される
正月休み明け、読了した一作の小説『天国の囚人』(カルロス・ルイス・サフォン、集英社文庫)には翻弄された。この作品は、『風の影』、『天使のゲーム』の順番で著者が出しているシリーズものの第三作。全体は四篇の長編小説から構成されるというから、まだあと一作が仕上がるのを待たねばならない。
前二作の筋書きがおぼろげに記憶をとどめているくらいの状態でこの作品を読み始めたが、それは読後も変わらない。自分が1939年から1960年の間のスペインのバルセロナの街を舞台にした小説を読了したということだけで、それが前の二作のどこでどのようにつながるのか、ということが皆目見当がつかないのだ。それでも小説としては楽しめた。
1939年から1960年の間。そのあいだにはスペインの内戦があった。独裁の嵐のなかで、登場人物たちが、さまざまな争いや葛藤に巻き込まれ、それぞれにとっての正義の道を究めていった。「センペーレと息子書店」の店主のセンペーレもそうであり、またそこで働くフェルミン・ロメロ=デ・トーレスもそうであった。
登場人物のそれぞれは多くを語らない。また語らせない。これは作家サフォンの特徴だと思うが、それは、人の思いは点在するかのようでしかし全体を合わせるとある一つの時代の潮流を表している、というような風に考えているからなのではないかと思う。しかし早くこの宙ぶらりんなる境地を脱したい。
四部作目まで読んで初めてサフォンワールドの全体がわかるのだろうが、その日が来るのを心待ちにしている。