出張の帰りの機中で、佐藤正午の『鳩の撃退法』(上、下)を読了。この小説は、とても不思議なものだった。なにしろ、筋書きがとびとびで、ああこの人の視点で書かれているのだな、と思っているとそのうちに、それは伝え聞いた話なのだ、これから僕の話になる、というように変わっていく。
小説には鳩の話が出てくる。インドの街には、鳩がたくさん飛んでいて、だからとても妙な気持になった。さらに司葉子も出てきて、それが出張コンパニオンの源氏名だからさら驚く。もっとも、内藤洋子だとか浅丘ルリ子、高峰秀子も出てくるから驚いてはならないのだけれど、しかし由りによって、小津映画の主演女優の名前を簡単に引用しないで欲しいよと思う。
一方、内藤洋子にしゃべらせる台詞は面白い。女優になった気持ちでコンパニオンが練習するのだ。映画『年ごろ』からの一節。
“あたし絶対がんばる、いっしょうけんめい勉強して、しっかり遊んで、良いひとを見つけて結婚して、ばりばり子供を産んで、素晴らしい家庭を作ってみせる!”
複数の話が並行で進む形の何とも奇妙な小説だなあと思い、耐え忍ぶように読み進めていくと、下巻の半分を過ぎたところで、思いもかけぬ展開に巻き込まれる。早く読みたくて仕方がなくなる。
佐藤正午は読ませてくれた。なんとも楽しい小説の完成に、終盤まで行く頃には拍手喝采を寄せてしまった。
「鳩」とはいったい何なのか?
そのことは小説の種と仕掛けなので、ここでは明かせないが、明かしたく無くなるのが、佐藤正午なのだ。