『水声』(川上弘美)・・・底から響く想い

みちのくからの帰途の車中に読了。『水声』(川上弘美、文藝春秋)は心に寄り添うような小説だった。

言うことを憚り続け、しかし心の底に沁み入るように横たわっている、確かなしかもしっとりとした気持ち。記憶の積層。

それは躊躇いがちな言葉のなかから、少しずつ明かされてくる。どこに向かっているのかは、冒頭を読んだだけで言わずとも分かっていた。書き表している作家も、もちろんそれを画しているのだけれど、端々に書き進めるためらいがあることが分かる。

僕らの周囲に居る人々はこれとは違う。言いたくて、明かしたくて仕方がないのだ。だから人が聞き終わるか終わらないかのうちに「それで、そしたら、どーしたか?あのねー」と畳み掛ける。

そういった、前のめりな一方的な感覚とは違う、しんじつの想い、ほんとうの気持ち。それらだけで満たされている。

主人公の姉弟、都と陵の母の幼馴染み友達の娘、菜穂子が彼らに云う。

“「昔、セブンアップ、よく飲んだね」
セヴンナッ、と菜穂子は小さく言った。久しぶりに聞く、菜穂子のアメリカ式発音だった。
「炭酸の音が、好きだったの、あたし」
「シュワシュワ?」
「ううん、それは、外から聞く炭酸の音。自分の体の中に炭酸がしみこんでいく時の音は、もっと違う音なの」
「どんな」
じーん、じーん。そんな音だった。菜穂子は言う。炭酸が喉を痛くしつつ飲みこまれていった、そのあと、むなもとで「じーん」って静かな音がするの。
「あたしたちは、水からできているから」‘’

そんなふうな、言葉と言葉が呼応のように編み込まれた関係。たとえそのなかに禁断ともいえる事柄が隠されていようとも、その世界はただただ美しかった。

水声

川上 弘美 / 文藝春秋

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Commented by およう at 2014-11-07 20:27 x
ちょっと読みたいなー、と思っていました。やはり明日見つけてきます(^_^)
Commented by k_hankichi at 2014-11-07 21:23
例えば、神保町の東京堂書店には、平置き状態でした。書評は例によって、読んでいませんが。
Commented by maru33340 at 2014-11-08 00:28
やはり良さそうだなぁ
Commented by およう at 2014-11-08 20:32 x
いつもの母のところからの帰り、東京堂にありました。^^
久しぶり川上弘美節を楽しみ始めています。
Commented by k_hankichi at 2014-11-09 10:54
maruさん、お薦めです。おようさん、お楽しみを。
Commented by およう at 2014-11-10 18:48 x
読みました。自分のブログに投稿するか迷っています。作者の感性の美しさはわかるのですがタブーの世界を現代に写して表現する勇気にびっくりしております。
Commented by k_hankichi at 2014-11-10 21:33
「おようの日々」でも、記事をどうぞお願いします。
by k_hankichi | 2014-11-07 05:23 | | Trackback | Comments(7)