ジュンパ・ラヒリの新作『低地』(新潮社クレストブックス)に、夜を更けるまでのめり込み読了。これは素晴らしいドラマだった。
インドのカルカッタに生まれた兄弟、スバシュとウダヤン。第二次世界対戦が終わるころから話は始まる。中流の暖かい家庭に育ち、それぞれが聡明なる思考を宿してゆく。
理科系の二人。兄スバシュは環境科学、弟ウダヤンは化学を専攻し大学院に進む。
ウダヤンは社会思想、差別社会に憤りを感じ、やがて闘争活動に身を走らせてゆく。学生ながらガウリという思想史を専攻する女性をめとる。
そして悲劇が訪れる。兄とガウリは、生きとし生けるものとしてアメリカのロードアイランド州に渡り、ウダヤンに代わって家庭を築いてゆく。二つ目の物語の始まりだ。
それより先い話をここに書いてはならぬ。このぎりぎりの、にじにじとした二人の関係を読み進めるうちに、それがもしかしたら自分のストーリーであったのかもしれないと感じ始めた。
アジアの南とアメリカ。そのあいだの熱くて深い情念。
今宵は、そこに近い華東の地に僕は居る。そのまま西に歩を進めたいという気持ちに駈られながら、漆黒の闇夜を眺めている。