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新・はんきちのつぶやき hankichi.exblog.jp

音楽、小説、そして酒を愛する方々との空間です


by はんきち
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『誰がヴァイオリンを殺したか』(石井宏)に魅了される

“「ユモレスク」、このメロディを聴いたことのない人はまずあるまい。しかし、ここにあるのは、みなの知っている「ユモレスク」ではない。なにか、遠い、異次元の中で、だれか、人間ではないエイリアンが奏でているかのように聞こえる。そんな「ユモレスク」なのである。それはごくゆっくりと流れ出てくる。最初の音が弦の上を静かにすべりはじめ、少しふくらみ、静かに消えていく。すると次の二つの音が姿を現わし、それが消えるのを待ってまた次の音が現れ…ゆったりと時間は進行する。”

これはウジューヌ・イザイによる1912年の演奏のことで、『誰がヴァイオリンを殺したか』(石井宏、新潮社)は、ここから始まる。18世紀、19世紀の音楽家たちが伝えようとした音というものが、如何なるものだったのかということを、著者はさまざまな史実をもとに解き明かしていく。そして次のように断罪までしてしまう。

“現代のヴァイオリニストたちがどれもこれもごしごしときしんだ音を出して平気でいられるのは、ひとつにはもう繊細な耳を失っていることであろうし、それ以上に、その事実に気がついていないことによるであろう。いずれも耳がバカになっているのである。(中略)機械文明の発展が人間の耳を奪い、繊細な感受性を殺してしまった。人の心に優雅さが戻るのはいつの日になるのだろうか。二十世紀の批評家の厳格主義、教条主義がヴァイオリンから悦楽の精神をもぎとってしまった。この世紀の初めの録音に微かに残るイザイ、サラサーテの優雅な音のよみがえる日はあるのだろうか。”

僕たちがいまの音楽家たちを通して聴いているものは、作曲者たち生み出した音魂とはまるで異なったものなのだ、ということをようやっと理解した。

誰がヴァイオリンを殺したか

石井 宏 / 新潮社

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by k_hankichi | 2014-08-28 17:59 | | Trackback | Comments(0)