河野多恵子の『秘事』・・・穏やかな毎日のなかにある幸せ

触れたことがない作家の小説を読むことを後押ししてくれるのが、古書街であり、その一冊が河野多恵子の『秘事』(新潮社)だった。

物語は、三村清太郎が大学のサークルの映画会で知り合った女性、木田麻子を見初め、結婚し、商社マンとして第一線で活躍するなかでの出来事や思いが中心である。経済小説の裏に起きている私生活のあれやこれやの軌跡が描かれる。

この作家は、一時は情愛小説家と揶揄されたこともあったようだが、そんなことは殆ど出てこない(一ヵ所だけ朧気な形で記されている)。

その朧気な描写のことが小説の題名の「秘事」なのかと思いきや、それは違って、思いもかけないことが最後に滲みでてきて終わる。

清太郎が密やかに思い続けたこと。妻に伝えようとしたこと。それが「秘事」で、彼女と共に要るその理由を最後の最後で伝えるからねと、約束していたのだった。

そしてその想いは叶わない。というか叶えない。麻子はそれでも良かったのだろうか・・・。それは読了した際の、静かな余韻が教えてくれる。

本の表紙装丁には、ルネ・ラリックのガラス工芸『接吻』(リスボン、カルーステ・グルベキアン美術館蔵)があしらわれている。

このガラス像を観るだけのために、この美術館を訪れたくなった。

■Museu Calouste Gulbenkian→http://museu.gulbenkian.pt/Museu/en/Homepage

秘事

河野 多恵子 / 新潮社

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Commented by saheizi-inokori at 2014-08-05 10:24
面白かった、ということだけ覚えています。
Commented by k_hankichi at 2014-08-05 20:07
saheiziさん、初めて読みましだか、静かな世界で良かったです。
by k_hankichi | 2014-08-05 06:10 | | Trackback | Comments(2)