アルデンテのパスタのしゃきしゃき感あるフォーレが、ある日いきなり光かがやく
みちのくから帰ってくる道すがら、素直に耳に入る音楽が無かった。バッハは拒絶され、ゼレンカは一蹴され、ペルゴレージは撥ね飛ばされた。さながら何を与えても拒絶し収拾がつかぬ赤子のようだった。
そんな中、びっくりするようなことがあるものだ。以前買い求めて、少し聞いただけでつまらぬものだと放っておかれた音盤が危機を救ってくれた。
それは光を放つというよりは、疲れた心身を揉みほぐすように浸してくれる感覚。イザベル・ファウストによるフォーレのヴァイオリンとピアノのための作品全集。伴奏はフロラン・ボファール。ソナタ第一番、第二番、子守歌、ロマンス、アンダンテ。
肩肘張ったいかつさの、ちょっと異質な演奏だと早合点していたが、感興の赴くままに処してゆく故だと分かった。アルデンテのパスタをしゃきしゃきっと食べて行くような演奏。
甘さの全くない素っ気なさは、エスプリとはだいぶん異なるが、気をもたせる仕草をしない人間のほうが逆に魅力を放つことに似ている。