今日も暑いぞ、と眠っているうちから意識していたのか、時差呆けが直っていないからなのか早くに目覚めた。
新聞に目を通し、仕事着も今日からは半袖ワイシャツにし、意気揚々と歯磨きをしながら我が身にふと目をやった。
ん?なんだ?
やけにクプクプしている。いや違う北杜夫ではない、プクプクしている。
昨日は日帰り露天風呂でマッサージまでしてもらったのに、殊更にプクプクしている。
い、いかん・・・。これでは10余年前の状態に向けて一直線だ。あのころの肥満ぶりが思い出された。
「○○さん、なんだかタイソンの首みたいですね!」
プロボクサーのマイク・タイソンのような首回りだというのだ。
なに?そんな筈はないぞ!僕は焦って抗弁した。
「後ろ側から見なければ分かりませんよ、前からでなく後ろ!」
仕方なく、鏡を見ながら浮世絵の「見返り美人」のように、やってみた。
「タ、タ、タ、タイソ~ン!、タイソン君!」
そこには確かに、ヘビー級ボクサーの首があった。猪突猛進のように一つのことしか考えられない猛獣のような人間。
そんなことを思いだしながらバス停に向かった僕は、いつものようにバスに乗った。
途中からバスは進行方向を変え右に折れ曲がってゆく。運転手さん、間違えてますよ、それは××駅行きの道順でしょ?
そういいかけた途端、僕自身が、乗り間違えたことに気付いた。
朝から呆けたタイソンの首に一筋の汗が光った。身も心も正真正銘のタイソンになっていた。