フォーレのチェロ曲のように・・・『彼が通る不思議なコースを私も』(白石一文)
この小説を読み終えたあと、フォーレのあのチェロ曲が聴こえてきたような気がした。「夢のあとに」だった。
『彼が通る不思議なコースを私も』(白石一文、集英社)は、この年初に発売されていたのだけれど、それを知ったのはつい今週で、手に入れたとたんにすぐに読み切ってしまった。そぞろ爽快な気分を禁じ得ない。
白石の小説は、いつも唸らされてしまう。そしてそれは毎回が異なる趣向なのだ。
次のようなことばがこの小説の集大成だ。
“彼はそう言い、
「キリコさんは、人間が生き延びるために一番必要なことって何だと思う」
と訊いてきたのだった。
「やっぱり、夢とか希望なんじゃないですか」
(中略)
「そういうときに生き延びる唯一の道はさ、生きる気持ちなんだ」
(中略)
「そうじゃないよ。生きる気持ちを維持するために必要なのは夢や希望なんかじゃないんだ」
「じゃあ・・・」
「自分が好きだってことなんだよ。他の誰でもない、とにかく自分自身が大好きで、超愛してるって思えることだよ。」”
自分の存在に不安を感じていたり、生きる意味を見失いそうになっている人にとっての、福音書のような小説だと思った。
■フォーレ「夢のあとに」・・・おっそろしく美しいヴァイオリンで →
http://youtu.be/64eM3cFho54