衒い(てらい)が無いということ・・・カール・ズスケによるバッハの無伴奏
先の週末から、カール・ズスケによるバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ&パルティ―タ全集を聴きこんでいる。この音盤は、そのジャケットからして素晴らしい。なだらかな山に囲まれた湖。その静謐なる水面を、一人の男が舟を曳く。その蒼い色調がえも言えない。
自分の過去を背負うかのように、すこしづつ歩みを進めるその先には何があるのだろうか。誰も知らない。知らなくても男は歩む。うつむきながらも直向きに、男は歩む。
バッハのこの曲は、いろいろな演奏家のものを聴きこんでいるのだけれど、こんなにも衒い(てらい)が無いものは久しぶりだ。その無垢さのわけを知りたいとは思うものの、おそらくその答えはない。それはズスケが、そんなことを考えながら弾いてはいないだろうからだ。
繰り返しこの演奏を聴く。聴きこんでゆくほどに、彼の無心というものだけが伝わってくる。東ドイツという時代の、貴重なまでに透き通った穢れない魂。
カール・ズスケという男の、孤高の心の透徹だけが、そこにある。
※この音源、いまはキングレコードのシャルプラッテンレーベル集から求めることができるほか、Naxosのダウンロードでも手に入れることができる。少し聴くだけでも(「選択曲を視聴」をクリックする)、無垢な孤高というものが滲み出てくる。
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http://ml.naxos.jp/album/0092752BC
■曲目
J.S. バッハ:
1)無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番ト短調BWV1001
2)無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番ロ短調BWV1002
3)無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番イ短調BWV1003
4)無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004
5)無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番ハ長調BWV1005
6)無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番ホ長調BWV1006
■演奏:カール・ズスケ(ヴァイオリン)
■録音:1,2)1983年, 3,4)1985年, 5)1988年, 6)1987年, ドレスデン・ルカ教会
■音盤:Berlin(edel) Classics 0149292BC(オリジナル:シャルプラッテン)