今井信子のヴィオラを、聴いている。ヘンデルの『私を泣かせてください』(Lascia Ch'io Pianga)だ。
慈愛に満ち、ため息と、ともに吐かれ、繰り返され、繰り返される。
声を、振り絞るように、むせび泣き、そして、爪弾かれ。
さいごには、声とも、音とも分からぬ、ほどに、擦れ、擦れたその旋律は、人の涙に変わる。
また、品川で降りるのを、忘れて、しまった。田町まで、乗り越して、しまった。
それほどに、聞き惚れる、美しく、哀しい、曲よ。
とぎれ、とぎれに、なりながら、むせび泣く、ヘンデルの、邪心なき響き。
我をこんなに、透明にさせる。朝から、透明にさせる。