『短歌があるじゃないか。』(穂村弘、東直子、沢田康彦)
『短歌があるじゃないか。』(穂村弘、東直子、沢田康彦、角川ソフィア文庫)は、素人、玄人の歌人たちの歌を、三人が同時に評していく対談形式の本で、評者3人の考えが浮き彫りになっていて面白い。僕はやはり、穂村さんの思考が自分にピッタリくる。
「うとうととねむってしまった台所のみさしのむぎ茶きらきら光る」 (松本茜)
「ふたりしてひかりのように泣きました あのやわらかい草の上では」 (東直子)
「ママンあの夜の雪のやうです海底に珊瑚が卵を降らせてゐます」 (堂郎)
「少年は光速で去りゆくもの校庭に二宮金次郎おいて」 (伴水)
一首だけ、沢田康彦にも不思議なる余韻が残る歌があって、それは西脇順三郎の詩を想像しながら詠んだものだということで、だから余計に好きになった。
「痛いほど水きらきらとふえてきて絵の具たりないタイフーン朝」
「秋」(西脇順三郎)
タイフーンの吹いている朝
近所の店へ行つて
あの黄色い外国製の鉛筆を買つた
扇のように軽い鉛筆だ
あのやわらかい木
けずつた木屑を燃やすと
バラモンのにおいがする
門をとじて思うのだ
明朝はもう秋だ