現在と過去を行き来する快感・・・『ジヴェルニーの食卓』(原田マハ)
友人に後押しされて読んで、そしてその小説は陶酔感のようなものがあとに残るとても心地よいものだった。『ジヴェルニーの食卓』(原田マハ、集英社)。
表紙カバーはクロード・モネの睡蓮。表題名は紫色のインク。本の真ん中に挟まる紐のしおりも紫色で、どこまでもその基調に統一されている。
『うつくしい墓』は、晩年のアンリ・マティスの家の家政婦(兼・インテリア目利き)を務めた、いまは年老いた女性が、美術館の取材に応じて、その思い出を語る。
「マティスの目。それは、恋する娘がのぞきこむ鏡。
マティスの心。それは、みつめる対象にせいいっぱい傾けられた清らかな水を注ぐ水差し。
マティスの指。それは、胸にしみ入る旋律を弾き出すピアノの鍵盤。
この世に生を享けたすべてのものが放つ喜びを愛する人間。
それが、アンリ・マティスという芸術家なのです。」
『エトワール』では、メアリー・カサットにエドガー・ドガとのやりとりを語らせる。
『タンギー爺さん』では、画材屋の娘が、彼の父に代わって、ポール・セザンヌに手紙を書き、それを通して、彼らの日々と芸術の昇華の過程を明らかにする。
『ジヴェルニーの食卓』では、彼の息子と結婚したブランシュの、クロード・モネの壮年から晩年までの生活を第三者が観ている構図。
美の巨匠たちが、どのような日々を送っていたのか。その生の姿を、それぞれ趣向を凝らした形で見せてゆく。これは小説だから、本当は違う様相だったのかもしれないが、違和感はまったく感じない。絵が語ってくる芸術家の風情が、原田マハの文章から、香り立つのだ。