“「生」は誕生から死に至る軌跡である。つまり、「生」は幽玄な時間の中に存在する。ところが「死」は無限への入り口なのだ。・・・・・人は無限の中に消えていった魂に向かって呼びかけ、谺に耳を澄ます。それが音楽の形をとる中で、レクィエムは際立った存在である。・・・・・レクィエムを書く作曲家は曲を書きながら何度も死と対話するに違いない。そうすることによってその時代の「死の意味するもの」が自ずと音楽の形をとる。それはまた無限への呼びかけなのである。作曲家は死に満たされた無限の闇に向かって呼びかける。”
こんなふうに作者が綴りはじめる『レクィエムの歴史 詩と音楽との対話』(井上太郎、河出文庫)を一気に読んでしまった。これまでに作られたレクィエムは、最古のオケゲムから数えると2000曲近いそうで、この本では、そのうちの130曲余りを紹介している。
ボヘミアのゼレンカ、ベートーヴェンが絶賛したケルビーニ、巨大な曲として有名なベルリオーズ。交響曲第8番とともにこの曲を携えてイギリスに渡ったドヴォルジャーク。作曲家たちがいつか一度は書こうと心したその思い入れを知る。
まだ聴いたことがなかった様々なレクィエム。もう居ても立ってもいられなくなった。
僕にとってこの本は、魂の救済を祈るための、まさしくバイブルになるだろう。