会社に通う道すがらに、庭にマセラッティのクワドロポルテが二台、さりげなく駐めてある家がある。実に絵になる。エンジン音の太い籠もり方だけでも音楽だ。いつかあの車に(買うのではなく)乗ってみたいという誘惑に駆られる。
思い出してみれば、たくさんある車のなかで、僕はいつも亜流を追い求めてきた。
社会人になりたてのころ、シトロエンのGSAパラス(車体はクリーム色)が買いたくて、東京中の中古車屋を捜し回った。しかし掘り出し物は無かった。
しかたなく初めて買った車は、ホンダ・アコードの中古車で、四気筒のところ二気筒しか動いていなかったり、ラジエターファンが回っておらず高速道路を降りたところでオーバーヒートしそうになったりした。しかし実に早い車だった。
その次は同じホンダのビガー。車高を空気圧で数センチ上下出来る変わった車種で気に入っていて、シートもレカロに替えて可愛がった。
そんなところで、フォルクスワーゲンのゴルフ(ラビット)が並行して挟まる。非力なエンジンながら、実にいろいろなところに走り回った。単純な作りのこの車のことは、いまでも良く思い出す。
次は日産のプリメーラ。ドイツ車的なデザインに衝動買いしたが、実に凡庸な走りで二ヶ月もしないうにに飽きがきて一年余りで手放した。ドライブの爽快さ、精神的な解放感が欲しかった。
馬力に憧れ買い求めたのは、クライスラーのジープ・チェロキー。軽量ボディに4000ccは、そこいらのスポーツカーを凌駕し、誠に嬉しかった。
しかし、それも間もなく家の事情で買い替えることになる。マツダのボンゴブレンディだ。8人乗りということやディーゼルで意外に馬力があり選択した。面白みのある車だったけれど、車検が来る頃にはエンジンが轟音という域のうるささで、我慢が出来ず売り払った。
そしてクライスラー人生に戻る。七人乗りのステーションワゴンを、ニ代続けて買い求め、楽しんでいる。ちょっとした故障は多いのだけれど、グランドプレーリーを軽く走破できるだろう鷹揚さが、とにかく良い。高速性と、たっぷりさ、二つ備えたこいつには只々頭が下がる。
若いころの車への愛着は失われてしまったけれど、美しいフォルムや素晴らしいエンジン音に出会うと、ああ、乗ってみたいなあという欲求が、むくむくと湧き出てくる。