録画してあったドラマ
『最高の離婚』(フジテレビ、木曜、脚本:坂元裕二)の第5話を、あまり気に留めおかずに眺めていたら、二組のカップルが熱海の温泉旅館に泊まるようなシーンが出てきていて、昨夕の電車(熱海行き)のなかで思っていたことが現実に起きているような感覚に陥った。デジャヴである。そして、身を乗り出して観始めていた。
離婚したばかりの濱崎光生(瑛太)と濱崎結夏(尾野真知子)、そして、まだ籍を入れていない上原灯里(真木よう子)と上原諒(綾野剛)は、それぞれの仲に関心がある。熱海の和室の部屋で、灯里は諒から、改めて正式に結婚しようと言われ、その瞬間、布団を被って突っ伏す。布団から顔をあげたその顔は、嬉しさのあまり泣きそうになっていていじらしい。うっとりとしたような表情が混ざるその姿からは、女の香りが伝わってくる。
そして翌日の夕方、ふたりは自分の部屋で婚姻届に記名をしようとする。そこで真木よう子の雰囲気が、がらりと変わる。綾野剛役の諒が、付き合っていた女に別れを告げたことをふと漏らしたのだ。直後に、真木は綾野に平手打ちをくらわせ、そして、長年の心の境地を、青森弁でつらつらと語り始める。
BGMもなく、そして途切れなく、真木は語ってゆく。どんなにか嫉妬を隠して明るくふるまってきたのか、夫を恨みつらんで明け暮れた自分の母のようになりたくないがために、母と同じ気持ちを封じ込め、目の前にいる諒に、どんなに優しく対峙してきたのか。この悔しさを初めて諒にぶつけ、爆発するのだ。低音のちょっとどすの利いた声色は、どんどんどんどん艶めかしくなり、そして「女」の執念の深さを思い知る。
明暗が不安定だったドラマの流れが、今回の真木の豹変をきっかけに、物凄い渦のなかに巻き込まれていくような気がする。“影をもつ女”を演じると甲乙つけがたい尾野と真木が、脚本家・坂元裕二の真骨頂を演じていく予感がする。