ピーター・ウィスペルウェイによるバッハの無伴奏チェロ組曲
オランダ出身の
ピーター・ウィスペルウェイによるバッハの無伴奏チェロ組曲を聴き始めた。この演奏のピッチはA=392Hzで、作曲された当時のケーテンのピッチだそうだ。現代の音のピッチ(A=440Hz)よりも全音低い。
彼はこれまでA=415Hzのバロックピッチでこの曲を演奏してきており、Youtubeにもいくつかアップされている。この音盤自体のコマーシャルもいくつかあるのだが、今回のCDのなかの音(392Hz)と中身が異なっていてそれは415Hz(つまり別音源)。同梱されているDVDを宣伝するYoutubeまでもそう。もうこうなったらナゾナゾの世界だ。CDショップかi-tunesで試聴してみるまではわからないことになる。視聴できる入口はココ→
http://eprclassic.eu/index.php/releases/page/js-bach
第1番のプレリュードは、森が遠くに見えるさわやかなる草原を自分が疾走しているよう。メヌエットは、そのなかの森の木々のさざめきの間に、ぽっかりと開いた広場で弦を響かせているのに似ている。そしてジーグは森の精との交歓だ。
第2番は、打って変わって、自分の心の中との対話のプレリュードから始まる。サラバンドは、唸る心の悩みのようで、そんな苦悩が最後まで続く。
第3番の渋みは、よく燻した野生の肉をすこしづつ噛んでいるような感じで、するとそこに若き日の凄みがじわじわと沁みだしてくるというような感覚。ブーレは、まだまだやれるぞ、この俺は、という気持ちが出てくる。
第4番は、あれ~、こんな曲だったっけ?と思うほどのゆったりとしたテンポから始まるので、だからこの演奏は初めて聴くような錯覚に陥る。
第5番においてもそれは続き、その悲痛な叫びはどんどんと増してくるようでおっかなくなる。サラバンドになるともはやこれは生きるべきか死ぬべきかという対話に直面しているようになっていて、あまり繰り返して聴いてはならないような、そんな畏れさえ感じる。つづくガボットもガボットとは思えず、苦悩の底から聞こえる叫びのようだ。
第6番は、そんな苦悩を超えて解脱をしてゆく男の、しみじみとした述懐と喜びのため息だ。ガボットにまで至るとその壮年の快活さは30年後の若大将のようで、それは最後のジーグの爽快さで締めくくられる。
こうやって聴いてみると、この曲は、1~6番の順番に、人間の苦悩と成長を描いているのかもしれないなあと思った。
■収録
バッハ:無伴奏チェロ組曲 全曲
■録音
2012.6月、Serendipitous Studio, mechelen, ベルギー。(この
メヘレンという街には一度行ったことがある。美しい街並みだ。)
Evil Penguin Music EPRC 012
■宣伝の映像(415Hzでの演奏だからCDの中身と異なる)