メロンパン。その恐るべき凛々しさよ、わが感覚を触発しつづけよ。
菓子パンといえば、アンパン、ジャムパン、クリームパン、チョコレートコロネ、ぶどうパン、蒸しパン、甘食などなどの、錚々たる競合を差し置いて、子供のころからメロンパンが大好物だ。いまでもパン屋やコンビニで棚から幾つか選ぶときも、必ず一つは選ぶ。
メロンパンは外側が硬くなければならず、そして内側は柔らかくなければならない。また、外側は甘く、内側は淡泊でなければならない。それは食べ方からくる必然性と美学だ。
食べ方としてのあるべき姿は、まず、全体の1/4程度のところまで面状に齧っていく。道路のトンネルを入口から見るような形に仕上げることが肝要だ。そのあとに、内側の柔らかい白い部分をほじくりだして食べる。外側の固いところに綻びや穴がないようにほじくること。全体がカマクラになる。自分がまだ訪れ見たことのない秋田県の風物を、遠く憧れる。
硬い殻が上手に仕上がっていることを、しばらく鑑賞しながら、次に、少しづつの切り崩しにかかる。硬いところには、砂糖が偏在して結晶化しているところもあり、また、まだ一部にはヌチャヌチャしている部分があったりもするが、乾燥と泥濘、ともに我あり。その地域地域の変化、世の中の厳しさ緩さを感じながら、切削を進めていく。そして半分ほどまで食べ進める。
ここからが、どんでん返しになる。
残った部分の端をミルクティー(砂糖は入れないこと)に浸す。少しだけ浸して、柔らかくなったところだけを食べてゆく。迅速に食べること。全体に浸透しないように気を付けながら。甘さと紅茶の渋みが見事にバランスする陶酔の極地を、そこで体感する。浸透による天変地異の変革だ。
今日の出先で立ち寄ったのは、HOKUO(北欧)。ここのメロンパンの外側の殻の頑強さは、チェーン店の中では筆頭に位置し、またラインアップも充実している。今日は、さくさくメロンパン、カプチーノレーズン(クッキーのような硬さの外殻生地にレーズンが入っているメロンパン)、モンブロード(表面に細かいピーナッツが一面にまぶしてあるメロンパン)の3つを選択。どれも構造がしっかりしていて、そして、外側と内側の硬度の差(ダイナミックレンジとでも言おうか)が大きい。
硬さと柔らかさ。
甘さと淡泊さ。
乾燥と泥濘。
浸透と変革。
メロンパン。その恐るべき凛々しさよ、わが感覚を触発しつづけよ。