三通りのドビュッシーの練習曲・・・それぞれの音楽から流れる思想

ドビュッシーの練習曲を三通りで聴いている。ミッシェル・ベロフ、ピエール=ロラン・エマール、青柳いずみこ。ずいぶんと曲想が違ってくる。

「四度のための」は、日本的な音調もあって青柳の解釈がまさに良くマッチしている。
「六度のための」は、エマールの音の何と優しいことよ。
「対比された響きのための」は、青柳の沈鬱さが愁眉だ。
「組み合わされたアルペッジョのための」は、天にむかう空の上に居るのがエマールである。

聞き比べてみると、エマールの夢幻のなかに我を優しく意識する美しさが際立つ。そしてそれは最後の(12曲目の)「和音のための」を聴くことで確信に変わるだろう。

三人についての僕の印象をそれぞれ記すと次のようで、それぞれの趣きはだからこんなにも違う。

1.五本の指のための
ベロフ:剛速で進みゆく正確無比なラッセル車。仕事は確実にこなしてゆく。
エマール:柔らかなるタッチのなかにコロコロとした音色が煌めく。
青柳:すこし籠もるセピア色の音色はノスタルジックに。

2.三度のために
ベロフ:暑い日差しのなかマロニエの木陰に楽器を置いて、僕はそれを肩の力を抜き弾いている。
エマール:リュクサンブール公園の冬の日の出のよう。
青柳:うっすらと雪が積もったパンテオンの前にときおり車が行き交う。

3.四度のために
ベロフ:副題〜遠くに見える冬の花火。
エマール:副題〜京都の嵯峨野の小径で。
青柳:副題〜通りから聞こえる琴のしらべの優しさに。

4.六度のための
ベロフ:去年、遊園地に一緒したときの楽しかった思い出と一抹の不安。
エマール:子供のころの愉しき語らいと昼下がりのまどろみ。
青柳:中学の放課後の校庭に転がっているテニスボールと、忘れものを取りにきた女子たちの明るい声。

5.オクターブのための
ベロフ:フラメンコの先生の緩急に合わせて。
エマール:波打ち際にて。
青柳:王宮の舞踏会にて。

6.八本の指のための
ベロフ:熊蜂のための。
エマール:小魚の群れのための。
青柳:蜜蜂のための。

7.半音階のための
ベロフ:「ちーちゃん、わ〜、まーちがーえ〜た」と聞こえる。
エマール:北京の城の上に舞う風から。
青柳:木枯らしの舞う夕方に。

8.装飾音のための
ベロフ:いろんな種類がいる動物園。
エマール:日差しのなか走りゆく車窓のなかで、目をつむると見える煌めき。
青柳:子供のころにデパートの屋上に有った、球状の容器のなかに噴水型に出るオレンジジュース販売機。

9.反復音のための
ベロフ:そのとき悪者は通りの影から影へ身を翻しながらこちらの隙きを伺っていた。
エマール:明るいベルリオーズの幻想交響曲である。優しいお化けは茶化しまわる。
青柳:あのころの過ちを思い出して奥歯に響くように苦い。

10.対比された響きのための
ベロフ:ベッドで眠っている私は夢のなかでやや粘性の流体に身を委ねて。
エマール:冷たい水の底に沈みゆく僕は、でもしっかりと自分の姿を見据えていた。
青柳:哀しみのアダージョのなか物憂げなる私は冷たい水の底に沈みゆく。

11.組み合わされたアルペッジョのための
ベロフ:コンテンポラリーダンスを踊りながら僕は…。
エマール:天に向かう空のなかであれやこれやをした下界でのことを思い出して僕は…。
青柳:先週わたしはあなたとあそこで過ごしたけれども、そのときのあの仕草のことがとっても気に掛かるわ。

12.和音のための
ベロフ:いまだに僕の力はこんなに有る、みよ僕に漲る律動を、まだまだ何度でも大丈夫だぞ僕はほら、こんなにほら。
エマール:くぐもった私の声は、昔はもっと力強かった、でも私は確信する、この人生が意味あるものだったことを。
青柳:あの激情を思い出したわ私、でもそれは過ぎ去った昔のこと、時々ふと浮かんでくるけれども、もうあなたのことなんか知らないわ。

ドビュッシー:12の練習曲

ベロフ(ミシェル) / コロムビアミュージックエンタテインメント

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ドビュッシー:映像/練習曲集

ピエール=ロラン・エマール / ワーナーミュージック・ジャパン

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ドビュッシーの時間:「版画」「

青柳いづみこ / (株)カメラータ・トウキョウ

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by k_hankichi | 2012-12-11 00:04 | クラシック音楽 | Trackback | Comments(0)